中リスク中リターンなスタートアップの戦略でもいいんじゃない?
こんにちはー。製造系スタートアップを創業し、あっぷあっぷしながらなんとかやってるゴリリンです。しばらく時間があいてしまいましたが、今日は起業について考えていることを書いてみたいと思います。
地味〜な中リスク、中リターンな戦略もありではないだろうか、というお話です。
目次
起業の本に書いてあること
私の会社は新規上場(IPO, Initial Public Offering)を目的とせず、買収されること(M&A, Mergers and Acquisitions)を目標として設立しました。うまくいけばそろそろM&Aが起きる段階なので次の起業ネタを探しつつ、起業の勉強を始めています。
「えええっ?もう起業もしてるしその会社を売却する段階なのに今頃起業の勉強してるの?」という声が聞こえてきそうですね。えぇ、そうです、遅いですとも!!自慢することではありませんが私も遅いと思います!
でも自分でやってみないと本やお話を聞いてもよく理解できないんですよね~。実験をしてみてはじめて教科書に書いてあることが理解できる感じです。もっと効率よくできたらいいのになぁと自分でも思いますが、これが自分なのであきらめています。私の場合はやってみてから勉強をした方が理解度が断然あがります。
ともかく、起業について勉強を始めてみるとわかったことがあります。めちゃくちゃいい情報がきちんと公開されているではありませんか!!こんな素晴らしい情報が世の中に公開されているなんて素敵ですね~~。知らなかったなぁ~。いかに自分の目がふしあななのか再確認してしまいました。
中でもこちらの田所さんの本「起業の科学」は読み物としても素晴らしいと思いました。田所さんの本では「スタートアップ」と「スモールビジネス」を区別されていて、特にスタートアップについて記載がされています。両者の区別については「起業の科学」をご参照頂きたいですが、私の場合は「スタートアップ」と「スモールビジネス」の中間にあたるように思いますが「スタートアップより」だと思います。
自分の会社を振り返りながら読み進めていくと、ページをめくるたびに「自分のスタートアップはやっちゃいけないことをたくさんやっている!」と変な汗が出てきます。もう取り返しがつかないことだらけ...。やばい。
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田所さんの本に限らずスタートアップに関する本や記事を読むと「スタートアップは新しい市場を作るもの」とか「世界を変えることを目指すべき」ということが繰り返し述べられています。これが私は全くできていないです(汗)!「誰も気づいていない市場をつくる」とか、できたらかっこいいけどなぁ。自分では全然できていません。ページをめくるたびに「うわぁーーーやっちゃった!スタートアップってそんなにくそ真面目にやらなくちゃいけなかったんだー」と社員には聞かれたくない心の声が出てしまいます。
その一方で「うーーーん、そんなケースばかりではないんじゃないかぁ」と違和感をもつ部分もあったりします。それは「アマゾンやテスラほどの大大大成功を必ずしも目指さなくてもいいのではないか」という感覚です。「スタートアップの成功といえばIPO!」というような考えがこれらの本や記事の背景にあるようになんとなく感じます。つまり、スタートアップ自身が大企業に成長するストーリーについて書かれているように思います。
私達の会社は買収されることを創業当初から目標としていますが、この場合は「新しい市場を作る」とか「世界を変える」ことを必ずしも目指さなくて良いのではないかと考えています。前置きが長くなりましたが今日はこのことについて書きたいと思います。
私のスタートアップの場合
私達の会社が創業当初から買収されることを目指す理由は、私達は私達が得意な開発に特化して、開発が終われば製造や販売が得意な会社にバトンタッチしたいと考えているからです。これはシリコンバレーの技術系企業では割と多いパターンで、成功すればそれなりのリターンもあります。
私達の会社の状況を振り返ると次のような特徴があります。
- 大きな既存市場がターゲット(大手企業が活躍する市場)
- 先行する製品があるけれどどれも完璧ではない。
- 特殊技術を必要とするため類似製品を持っている大手のプレーヤーが少ない。
既存市場をターゲットにしているので「新しい市場を作る」ようなものではありません。様々な書籍に書かれているようなスタートアップの教科書的にはダメな例に当たります。しかも大手企業も活躍する市場です。これは田所さんの本でも「ゴリリン、アウト~~」って言われてしまう状態です。
更に私達が開発している製品と類似の製品が既に市場に出ています。だから私達の製品で「世界が変わる」という事もありません。これも田所さんの本で「ゴリリン、アウト~」と言われてしまうと思います。
ただ先行する製品がどれも完璧ではないので、私達の製品を使うことでユーザーにとってはもっともっと便利にはなります。またその製品には特殊技術が要求されるので類似製品を持っている大手のプレーヤーが少ない状態です。
つまり大手企業がひしめく既存市場で需要はあるものの供給が足りていない製品を提供するということを私達の会社ではやっています。
市場もあって、ニーズもあって、買収してくれそうな大企業候補が複数あって、足りないのは技術だけ、という状況で私達がその技術を提供するという構図です(と私は思っています)。足りていない「技術」というパズルのピースを埋めている感じです。これが私達のスタートアップの価値だと考えています。
スタートアップが大企業との競合を避けることは必要だけど、避け方は色々ありえると思います。今回は多くの大企業では持ち合わせていない特殊技術を私達のスタートアップが持っていることが直接の競合を避ける要因になっていると思います。私達にとっては残念ですが、全てを持ち合わせた大企業も実際にはあります(涙)。でも持ち合わせてない大企業が断然多いという状況でした。完全に競合を避けているわけではないけれど、だいたいは避けているというグレーな感じです。
私達のスタートアップの状況を分析するとこんな感じですが、創業当時はこんなこと考えていませんでした(自慢気)!色々試行錯誤しながら仕事をしてきて、最近になって読んだ起業に関する本に書いてあることと自分がやってきたことが違うように感じるので、ブログを通じて言語化してみたらこんな感じになったというものです。後付けです。
中リスク中リターンなスタートアップの戦略
田所さんの本に書いてあるような新しい市場を作ったり、世界を変えるようなことを目指すスタートアップは成功確率が低い反面当たれば大きい「ハイリスク・ハイリターン」な戦略をとっていると言って良いのではないでしょうか。
一方、私達の会社の戦略はもっと中途半端な「中リスク・中リターン」な戦略と言って良いと思います。大企業に買収されることを目標にしたこのような中リスク・中リターンな戦略があっても良いのではないでしょうか。
抽象化があまりうまくはないですが、こんな感じです。
- すでに市場がある
- その市場では買収してくれそうな大企業がしのぎを削っている
- ニーズがあることは知られている
- 先行製品やサービスはすでにある
- ユーザーのニーズが完全には満たされていない
- 足りていないピースを自社が埋められる
このような戦略のスタートアップは爆発的な成長はしないけれど、ベンチャーキャピタルも満足するそこそこのリターンをもたらすことができるように思います。
新しい市場を作ることを目指すよりは、すでに市場がある分リスクは低くなると思います。しかも大企業が活躍する市場であれば市場規模も十分大きく、ゆくゆく自分達を買収してくれそうな大企業候補が存在するということです。またすでにあるニーズに対して取り組むので、ニーズを掘り起こすようなプロジェクトよりもリスクは低くなります。
まさに中リスク・中リターンです。当事者ではない人から見ると華々しくはないし面白みも少ないかもしれないけれど、実際にやる当事者にとっては比較的取り組みやすいのではないでしょうか。
最後に
自分自身で体験したことと本に書いてあることを見比べてみると、自分では気づいていなかった視点や改善点が見つかってとても刺激的です。当たり前だけど、プロジェクトの数だけやり方はありますね~。面白いです!自分にあった情報を取捨選択するという意味でも、実際に自分でやりながら本を参考にするのが良いなぁと感じています。
私達のスタートアップの戦略は中リスク・中リターンなものでしたが、繰り返しですがこれは完全に後付けです。最初に戦略をたてて実行したのではなく、やりながら自分達で状況を分析し、戦略を変えながら、解決方法を探り、実行を繰り返していたらこうなりました。状況は時々刻々と変わるし、自分の行動によっても状況は変わっていくので、状況の分析はほどほどにして行動を起こしていくことは大切だと実感しています。
ハイリスク・ハイリターン、中リスク・中リターン、ローリスク・ローリターンなど色んな戦略があって自分達にあった戦略をとることになりますが、スタートアップはハイリスク・ハイリターンという王道な考えのほかにも、私達のような中リスク・中リターンという地味~な戦略もあります、というお話でした。
今日は以上です。最後まで読んで頂きましてありがとうございましたー。