スタートアップであっぷあっぷブログ

元研究者のスタートアップ経営者がスタートアップでの経験やキャリアについて発信するブログ。雰囲気ゴリラ似。

なぜベンチャー企業の方が製品開発速度が速いのか 1「開発が遅れると会社が潰れるから」

ベンチャー企業(スタートアップ)の方が製品開発スピードが速い

 

これは非常に良く言われる事ではないでしょうか。一般論は色んな所で議論されているのでここでは日本の大企業、アメリカの大企業、ベンチャー企業で実際に働いた自分自身の経験から感じている事を述べてみようと思います。長くなるので複数回に分けて記載します。なお私の体験は製造業に関するものなので、きっと他の業界では状況が違うと思うのでその点はご了承下さい。

 

ベンチャー企業の方が製品開発速度が速い理由

結論は次の通りです。

  1. 開発が遅れると会社が潰れるから
  2. 小さな失敗が許容されるから
  3. 意思決定、認識の共有、社内調整に時間がかからないから
  4. 専門性の高い他社に業務を委託するから
  5. 社内ルールや行事が必要最小限だから

 

以上の項目はそれぞれ独立なものというよりは相互に関連しています。1-5の各エントリーのリンクはこちらです。今回は1の「開発が遅れると会社が潰れるから」について書いてみたいと思います。

 

【なぜベンチャー企業の方が製品開発速度が速いのかシリーズ】 

  1. なぜベンチャー企業の方が製品開発速度が速いのか 1 - スタートアップであっぷあっぷブログ
  2. なぜベンチャー企業の方が製品開発速度が速いのか 2 - スタートアップであっぷあっぷブログ

  3. なぜベンチャー企業の方が製品開発速度が速いのか 3 - スタートアップであっぷあっぷブログ

  4. なぜベンチャー企業の方が製品開発速度が速いのか 4 - スタートアップであっぷあっぷブログ

  5. なぜベンチャー企業の方が製品開発速度が速いのか 5 - スタートアップであっぷあっぷブログ

 

1. 開発が遅れると会社が潰れるから

これは文字通りの意味で、開発遅延が起こると資金が足りなくなって会社が潰れてしまう事を指しています。会社では人件費や家賃など会社の業績の良し悪しに関わらず支払わなくてはいけない支出があります。いわゆる固定費です。開発が遅延すれば売上の無い期間が延びる一方固定費は払い続けなくてはいけないため、創業したばかりの私達のような小さなベンチャー企業には死活問題になります。私の会社の場合、家賃は低く抑えているので、固定費はほぼ人件費になっています。成果を出すためには戦力になってくれる社員の人達の協力が不可欠なため、モチベーション維持のためにも報酬を下げるのは難しく、固定費削減には限界があります。

 

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私の会社ではベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けて製品開発を行っていますが、投資額は投資を受けた時点の計画に基づいて設定されています。投資家にばれないようにこっそりとある程度遅延を見込んだ計画を経ててはいても、プロジェクト中のどこで遅延が発生するかが判らない状況なので、少しの遅延でもとても怖く感じてしまいます。私がビビりすぎなのかも知れませんが。そのくらいベンチャー企業経営者にとって遅延はものすごいプレッシャーになっています。会社から出ていく固定費との兼ね合いはありますが、いくらかの追加費用を払うことになったとしても、遅延を回避するために全力を尽くしたくなります

 

もちろんVCからの追加投資などを依頼する事も可能ですが、VCからは追加投資の前に打てる手は全て打つ事を求められます。そうでなければVCとしても通常はお金は出してくれません。なので追加投資を受けるのも結構大変です。。。更に追加投資を受けると持ち株比率が変わってしまうので株主間の調整が必要になります。複数の株主がいる場合はこれも大変な作業になります。またVCは追加投資することにより、一層高い価格でのExitを当然望みます。つまりVCからは企業価値がより高くなる事を期待されます。これは経営者にとってはさらに強いプレッシャーがかかることになります。考えただけで胃が痛くなりますね~~。だから私は追加投資をもらわなくても良いように全力を尽くしています。

 

一昔前に「〇〇億円(高額)も調達しました~!イエーイ!」という感じのベンチャー企業経営者を良く見かけましたが、正直言ってその人達の気が知れません。Exitが大変になるのに...と思ってしまいます。プレッシャーにならないのかなぁ。そういう図太いメンタリティは学びたいです!

 

遅延に話を戻すと、私の会社で実際に起こった遅延はこんな感じです。

  • 業務を委託した会社さんに契約通りの仕事をしてもらえず遅延
  • 業務委託する会社を変更したために開発に手戻りが発生して遅延
  • 業務を依頼した外部コンサルが時間を浪費している事に気づかず遅延
  • 想定外の技術課題が見つかり、その対策のために遅延
  • コロナウイルス蔓延のためアメリカで実施予定だった試験ができず遅延

 

影響が大きかったのは業務委託をした会社さんに契約通りの仕事をしてもらえなかった事とコロナウイルス蔓延のためアメリカで実施予定だった試験ができなかった事でした。

 

大企業からベンチャー企業に移ってカルチャーショックだったのは、契約を守ってもらえない事がまあまあ発生する事です。自分達がベンチャー企業だと会社の信用度が低く、お付き合いしてくれる会社さんも少なくなります。お付き合いしてくれる数少ない会社さんの中には契約を重視しない会社さんがまあまああるんですよね!びっくり。

 

つまり自分達の会社もそうですが、信用度の低い会社さんとお付き合いしながら仕事を進めなくてはいけなくなります。会社の信用度が低いって大変だなぁ...(悲哀)。大企業に勤めていた時は契約を結べば守ってもらえるものだと思っていたんですけどね。世間知らずでした。契約違反だと言って訴訟するという手もあるにはあるけれど、ベンチャー企業なんて訴訟している間に資金が底をついて潰れてしまいますからね。現実は厳しいです。完全に足元を見られてしまっている感じです。悲しい~!!

 

話を戻して、遅延を回復することについてこれから書いてみようと思います。

 

このように生じた遅延を回復するために、業務委託先をすぐに変更し、遅れを取り返すためにそれまでに得た知見を次の業務委託先に全てつぎ込むことを行いました。業務委託先の変更にはかなり迷いがありましたが、他の取締役に「駄目な人はいつまで経っても結局駄目なままですよ」と言われ決断をすることになりました。ほどほどにもめた上に追加費用も必要になったけれど、結果としては遅延を最小限に食い止めることができて良い結果になりました。経営者が判断を誤ると一気に会社が傾くという痛い経験になりました。高い授業料を払いました...。でも不幸中の幸いなことに、追加の費用発生を受け入れて早めに方向転換の決断を下したのが結果として良い方向に転がりました。ラッキーです。

 

またコロナウイルス蔓延は完全に想定外の出来事でした。世の中の誰もが予想できなかったことですよね。

 

とはいえ資金の減少は待ってくれません。2020年の2月頃には「2か月くらいしたら収束するだろう」という甘い見込みを持っていました。ところがあれよあれよという間にパンデミックになってしまい日本から出られる状態では無くなってしまいました

 

元々日本では実施ができないと言われていた試験だったためかなり焦りましたが、日本国内でなんとか試験が実施できないかと模索したところ、めちゃくちゃラッキーな事に日本でも試験ができることになりました!九死に一生を得ました。

 

パンデミックの影響で4か月の遅延が出てしまいましたが、きちんと試験が実施できたのは不幸中の幸いでした。アメリカに渡航できる時期を待つという決断をしていたらもっと遅延は大きくなってプロジェクトは終わっていたと思います。考えただけでゾッとします...。振り返ってみると最悪の事態(アメリカに渡航できない事)を想定し次善の策を求めて行動しまくったのが良かったと思います

 

このように見ると遅延の回復のために早々と次善の策を取る事が肝要だったと思います。

 

これと比較して大企業ではどうだったかという事は後に書きますが、私の経験では大企業では計画を変更することと遅延回復のために追加費用の支払いを決断することが難しいと感じています。

 

また大企業ではプロジェクトが遅延しても会社がすぐに傾く事は無いでしょうし、社員も解雇されることも無いので、計画遅延に対して感じるプレッシャーがベンチャー企業ほどには強くありません。特にコロナウイルス蔓延のような不可抗力的な事態が起きた場合には誰もが「仕方ない」といって遅延を受け入れてしまうのではないでしょうか。そこで働く社員にとっては素晴らしい環境ですが、開発速度という意味では遅くなります

 

次回は2の「小さな失敗が許されるから」について書きたいと思います。

 

=== それぞれのエントリーは以下 ===

 2 小さな失敗が許容されるから

gorilyn.hatenablog.com

 

3 意思決定、認識の共有、社内調整に時間がかからないから

gorilyn.hatenablog.com

 

4 専門性の高い他社に業務を委託するから

gorilyn.hatenablog.com

 

5 社内ルールや行事が必要最小限だから

gorilyn.hatenablog.com

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